長嶋一茂・千原ジュニア も悩まされた股関節の痛みとは?
掲載日:2025.01.06
みなさんは、スポーツ選手や芸能人など有名人が股関節の手術を受けたというニュースを耳にしたことがありますか? たとえば、元プロ野球選手でタレントの長嶋一茂さん、そしてお笑いタレントの千原ジュニアさんも、股関節の痛みに悩まされて人工股関節置換術という手術を受けています。なぜ彼らの股関節は痛み、そして手術に至ったのでしょうか? 本コラムでは、初めは違和感だけだったのに徐々に股関節が痛くなってきた、といった症状がどのような要因で起こるのか、また変形性股関節症や臼蓋形成不全、大腿骨頭壊死といった病気やMRIなどの検査方法について、わかりやすく説明します。さらに、痛みを軽減し、再び快適な生活を送るために選ばれる人工股関節置換術についても解説します。
1.股関節はどんな関節?
2.有名人が経験した股関節の病気
3.股関節痛の原因とは?
4.どんな検査をするの?
5.人工股関節置換術とは
6.人工股関節置換術の利点とリスク
7.予防や日常生活で気をつけるポイント
8.まとめ
9.参考文献
股関節はどんな関節?
股関節は、太ももの骨(大腿骨)の先端にある大腿骨頭(だいたいこっとう)という球状の部分が、骨盤側のくぼみ臼蓋(きゅうがい)にはまりこんでいる関節です。言い換えれば、「ボールとソケット」のような構造で、足を前後左右に動かしたり、回したりするために欠かせない重要な関節です。この股関節がスムーズに動くことで、私たちは歩く、走る、座る、立ち上がるといった日常動作を楽に行えます。けれども、この股関節に異常が生じると、生活の質(QOL:Quality of Life)は大きく下がります。なぜなら、痛みや可動域の制限が出ると、長く歩くことや立ち続けることが難しくなり、スポーツやレジャーだけでなく、日常生活のちょっとしたことも苦痛になってしまうからです。
有名人が経験した股関節の病気
ここで冒頭にお伝えした有名人の例を挙げてみましょう。
(1) 長嶋一茂 さんのケース
長嶋一茂さんは、若い頃からスポーツマンであり、プロ野球選手としても活躍した方ですが、後年になって右股関節の痛みを抱えるようになりました。その原因として指摘されたのが「臼蓋形成不全(きゅうがいけいせいふぜん)」という状態です。これは、股関節を支える骨盤側のくぼみ(臼蓋)が生まれつき浅かったり、形が十分ではなかったりすることを指します。臼蓋は本来、ボール状の大腿骨頭をしっかり包み込み、衝撃を和らげ、スムーズな動きをサポートします。しかし臼蓋形成不全があると、そのはまりこみが不十分なため、股関節にかかる負担が増し、軟骨がすり減りやすくなります。
このように長い年月をかけて少しずつ股関節が傷んでいくと、やがて変形性股関節症(へんけいせいこかんせつしょう)へと進行します。変形性股関節症とは、軟骨がすり減り、骨同士が直接こすれ合うことで痛みや動きの制限が起きる状態です。長嶋一茂さんは臼蓋形成不全を基盤として、徐々に軟骨がすり減り、違和感と軽い痛みが、突然、右だけ股関節が急に痛くなり、最終的には変形性股関節症と診断されました。痛みが強くなると日常生活や仕事にも支障が出るため、人工股関節置換術を受けることを選んだのです。
(2) 千原ジュニア さんのケース
一方で、お笑いタレントの千原ジュニアさんは、ある日、右股関節が急に痛くなったと報じられています。彼の場合は大腿骨頭壊死(だいたいこっとうえし)が原因でした。大腿骨頭壊死とは、その名の通り、大腿骨頭の骨組織が血流不足などで死んでしまう(壊死する)病態で、MRIにより早期診断が可能です。壊死が起こると骨は弱くなり、つぶれたり変形したりします。その結果、急激な痛みや可動域の制限が起きます。大腿骨頭壊死はアルコールの過剰摂取、ステロイドの長期使用が危険因子と言われていますが、はっきりとした原因は不明です。比較的急な痛みの発生を特徴とすることがあり、千原ジュニアさんも股関節の右だけ急に痛いという事態になり、歩くのも困難になったそうです。こういった深刻な骨のダメージは、保存的な治療(リハビリや痛み止め)だけでは十分に改善が難しいケースが多く、最終的には人工股関節置換術が選択されることがあります。
股関節痛の原因とは?
股関節が痛くなる原因はさまざまです。代表的なものを以下にまとめます。
1.変形性股関節症
軟骨のすり減りが進むことで痛みが出る状態です。臼蓋形成不全があると若い頃からじわじわ進行することもあります。
2.臼蓋形成不全
生まれつき股関節のくぼみが浅い方(発育性股関節形成不全)は、股関節に負担がかかりやすく、変形性股関節症へ進行しやすくなります。
3.大腿骨頭壊死 [1]
血流障害などで大腿骨頭が弱り、つぶれてしまう状態。比較的急な痛みが特徴的です。
4.関節唇損傷 [2]
股関節の周りにある軟骨が痛んだ状態です。サッカーやバレーボール、ラグビーなど股関節を激しく動かすスポーツに見られます。高いところから落下する、転倒などが原因になります。
どんな検査をするの?
股関節が痛いと感じた場合、整形外科などの医療機関では問診や視診、触診のほか、画像検査を行って原因を特定します。代表的な検査としては、以下が挙げられます。
1.レントゲン(X線)検査:
骨の形状を確認するために最も一般的です。臼蓋形成不全や変形性股関節症では、軟骨がすり減り、関節の隙間が狭くなっていたり、骨が変形したりしている様子がわかります。
2.MRI(磁気共鳴画像)検査:
MRIは軟骨、骨、周囲の筋肉・靭帯、さらには骨の内部構造まで精細に映し出すことができる検査方法です。大腿骨頭壊死の初期段階は、レントゲンではわかりにくい場合もあり、MRIを用いることでより早期に異常を発見することができます。
3.CT検査:
大腿骨や臼蓋の骨の形が立体的に描出されるので、骨の詳細な3次元構造を把握するために役立ちます。手術前の評価には必須の検査です。
人工股関節置換術とは
人工股関節置換術は、痛みや機能低下が著しく、保存的な治療(薬物療法、リハビリテーション、注射など)では改善が難しい場合に行われる外科的治療法です。人工股関節は、金属やセラミック、ポリエチレン(特殊なプラスチック)などでできており、摩擦が少なく、長持ちするよう設計されています。手術は大きく股関節の前方から、後方から皮膚を切って行います。手術の後に脱臼しやすいポジションが違うので主治医に確認しましょう。
手術の流れ:
1.患部を切開し、傷んだ大腿骨頭および臼蓋側の軟骨や骨を取り除きます。
2.大腿骨側にはボール(球状)のパーツを取り付け、骨盤側にはカップ状のパーツを埋め込みます。
3.これらがスムーズにかみ合うことで、新たな人工の股関節として機能します。
手術時間は症例によりますが、1時間程度で行われ、その後リハビリテーションを行うことで、数カ月後には歩行がスムーズになり、痛みが大幅に軽減するケースが多くあります。
人工股関節置換術の利点とリスク
利点:
●痛みの軽減:長年の股関節痛が劇的に減少することが多いです。
●生活の質の向上:歩く、座る、立ち上がるなどの日常動作が楽になり、旅行や趣味を再開できる可能性が高まります。
リスク:
●感染症:手術は体を切開するため、まれに細菌感染が起こる場合があります。感染すると再手術が必要になることがあります。
●脱臼:人工関節は靭帯を切るので元来の関節ほど強固ではなく、不適切な動きをすると人工関節が外れることがあります。
●摩耗・ゆるみ:長い年月が経つと、摩擦によって人工関節がすり減ることや、骨との固定がゆるむこともあります。
現在の医療技術は進歩しており、材料や手術法の改良により、人工股関節は10年、20年、あるいはそれ以上快適に使えるケースも増えています。
予防や日常生活で気をつけるポイント
日常生活の中で股関節を痛めないように心掛けることがあります。
1.適度な運動
重い負荷を急にかけるのではなく、ストレッチや軽いランニングなどで股関節周りの筋肉をバランスよく鍛えると、関節への負担が軽くなります。
2.体重管理
体重が増えすぎると股関節への負担が大きくなります。適切な食生活と運動で、健康的な体重を維持しましょう。
3.生活様式
床から起き上がる、正座、あぐらなどの姿勢は股関節に負担がかかります。和式より洋式の生活様式がおすすめです。
4.早めの受診
股関節の違和感がある、右だけ股関節が急に痛い、左だけ股関節が急に痛い、といった症状が出たら、放置せずに早めに整形外科を受診することが大切です。レントゲンで異常がなくてもMRIで大腿骨頭壊死や関節唇損傷が見つかることがよくあります。
まとめ
このコラムでは、長嶋一茂さんや千原ジュニアさんが受けた人工股関節置換術ついて、またその背景にある変形性股関節症、臼蓋形成不全、大腿骨頭壊死、股関節唇損傷といった病気、そしてMRIなどの検査方法について解説しました。股関節の病気は誰にでも起こりうるものであり、たとえ有名人やスポーツ選手であっても例外ではありません。
しかし、医療の進歩により、再生医療や人工股関節置換術などの手術を受けることで、再び快適な生活を取り戻すことが可能になりました。股関節痛の原因を理解し、早めに対処し、痛みを和らげて健やかな毎日を送ることができます。
中山クリニックは、地域の皆さんが「笑顔と健康で幸せ」に過ごせるよう、痛みや不安を抱える患者さんに対して、正確な診断と適切な治療を提供することを目指しています。軟骨を守って明るく楽しい健康な生活を過ごしましょう。
再生医療 無料カウンセリング
再生医療に興味のある方に、当院では無料カウンセリングを提供しています。
専門のスタッフが丁寧に説明し、個別相談を通じて最適な治療法をご提案します。APS療法や脂肪幹細胞移植について詳しくご案内し、ご希望に応じて画像診断の予約も承ります。
初診の患者様でもご利用いただけますので、お気軽にお申し込みください。
参考文献
- Kerachian MA, Harvey EJ, Cournoyer D, Chow TY, Séguin C. Avascular necrosis of the femoral head: vascular hypotheses. Endothelium. 2006 Jul-Aug;13(4):237-44
- Schmitz MR, Campbell SE, Fajardo RS, Kadrmas WR. Identification of acetabular labral pathological changes in asymptomatic volunteers using optimized, noncontrast 1.5-T magnetic resonance imaging. Am J Sports Med. 2012 Jun;40(6):1337-41.