整形外科医が選ぶ痛み止めランキング:安全で効果的な使い方ガイド
掲載日:2024.11.12
はじめに:痛みとの付き合い方を見直す時
皆さんは日常生活で痛み止めを使用する機会が多いのではないでしょうか?頭痛、歯痛、腰痛、関節痛…。痛みは私たちの生活の質を大きく低下させる厄介な症状です。しかし、「どの痛み止めを選べばいいのか分からない」「副作用が心配」という声をよく耳にします。
実は、痛み止めの選び方を誤ると、効果が得られないどころか、重大な健康被害を引き起こす可能性があるのです。このコラムでは、当院整形外科での処方データに基づいた「痛み止めランキング」をご紹介しながら、その特徴と安全な使用法について詳しく解説していきます。
1.なぜ今、痛み止めの正しい知識が重要なのか?
2.医師が選ぶ痛み止めランキング TOP5?
3.第5位:ボルタレン(85例)
4.第4位:トラムセット(2,395例)
5.第3位:セレコックス(3,500例)
6.第2位:ロキソニン(3,667例)
7.第1位:カロナール(3,875例)
8.痛み止め強さランキング
9.よくある質問
10.安全な使用のための3つの原則
11.まとめ:正しい痛み止めの使い方
12.参考文献
なぜ今、痛み止めの正しい知識が重要なのか?
近年、市販薬の普及により、痛み止めへのアクセスが容易になっています。しかし、その手軽さから、誤った痛み止めの使い方が蔓延しています。2023年のThe Lancetの報告[1]によると、不適切な痛み止めの使用による健康被害は年々増加傾向にあるとされています。
医師が選ぶ痛み止めランキング TOP5
痛み止めは、ガン、片頭痛など、部位によって特殊なお薬があるので、今回は整形外科での領域、つまり怪我や関節痛の痛み止めに焦点を当てています。兵庫県にある中山クリニック整形外科は11名の整形外科医が診察しており、全員が臨床経験8年以上で整形外科専門医の資格を有しています。処方データ(2024年9,10月 13,522症例)に基づく、医師が実際に選択した痛み止めランキングをご紹介します。
第5位:ボルタレン(85例)
ボルタレンは、強い鎮痛効果と抗炎症作用を持つことから、激しい痛みや怪我、捻挫、骨折など急性期の痛みに効果を発揮します。
特徴:
- ・消炎鎮痛効果が最強レベル
- ・手術後の強い痛みや発熱に効果的
- ・坐薬は肝臓で代謝されないので即効性がある
注意点:
- ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍など胃腸障害のリスクが高いので胃薬の併用が望ましい
- ・高齢者は特に注意が必要
- ・アスピリン喘息には禁忌
第4位:トラムセット(2,395例)
アセトアミノフェンと弱オピオイドの合剤です。痛みを感じる神経系に作用して痛みの伝達を抑えます
特徴:
- ・アセトアミノフェンと弱オピオイドの合剤
- ・1日1-8錠まで調整可能 鎮痛効果、つまり痛みを抑えるのは最強
- ・抜歯後の痛みにも保険適用
注意点:
- ・悪心、嘔吐、便秘の副作用に注意
- ・眠気を伴うことがある
- ・長期処方は依存性の危険あり
- ・アルコール摂取は肝障害の危険があり
第3位:セレコックス(3,500例)
セレコックスは、胃腸への負担が比較的少ない新世代の痛み止めです。特に関節リウマチなど長期的な使用が必要な慢性痛に適しています
特徴:
- ・アセトアミノフェンと弱オピオイドの合剤
- ・関節軟骨保護効果あり*
- ・高齢者やリウマチ患者に推奨
注意点:
- ・高齢者には胃腸障害の危険あり
- ・心筋梗塞や脳梗塞など心血管系の既往症の患者さんには慎重投与
*Mastbergen SCらの研究(Rheumatology, 2002)によると、ラットモデルにおいて軟骨保護効果が実証されています[2]。
第2位:ロキソニン(3,667例)
ロキソニンは、とても有名な痛み止めで市販薬でも販売されています。キレのあるお薬で、強い鎮痛効果と抗炎症作用から、筋肉痛や関節痛に効果を発揮します。日本整形外科学会の調査によると、整形外科医の約80%がロキソニンを日常的に処方しているという結果が出ています。
特徴:
- ・効果発現が早い(15分程度)
- ・30分で血中濃度がピーク
- ・市販薬としても入手可能
注意点:
- ・胃潰瘍、十二指腸潰瘍など胃腸障害のリスクあり
- ・アスピリン喘息には禁忌
- ・腎機能が悪くなる(特に高齢者)**
注意点: **若年者でも運動前の服用は危険!Küster Mらの研究(BMJ Open, 2013)では、マラソン前の服用で腎障害や脳浮腫のリスクが報告されています[3]。これはマラソンによって身体が脱水状態となり、ロキソニンの副作用が起こりやすくなるからです。
第1位:カロナール(3,875例)
カロナールの主成分であるアセトアミノフェンは、その高い安全性と十分な鎮痛効果から、多くの整形外科医が第一選択として推奨する痛み止めです。高齢者や子供にも使いやすいお薬です。
特徴:
- ・幅広い年齢層で使用可能
- ・点滴投与も可能
- ・膝関節痛に対して日本整形外科学会でグレードA評価 アメリカ整形外科学会でも第一選択薬
- ・効果:中程度の痛みに効果的
- ・使いやすさ:服用回数が少なく、食事の影響を受けにくい
注意点:
- ・胃腸障害が少ないがある
- ・肝機能障害(特に大量投与時)
- ・アルコール摂取は、肝臓に大きな負担をかけます
痛み止め強さランキング
今までは、整形外科医が処方するランキングでした。では、痛み止めの強さランキングでは、どうなるのでしょうか?これは、第5位 カロナール 第4位 セレコックス 第3位 ロキソニン 第2位 ボルタレン 第1位 トラムセットの順になります。理由は次の通りになります。カロナールはアセトアミノフェンで鎮痛効果のみ、セレコックス、ロキソニン、ボルタレンは非ステロイド系抗炎症炎薬で鎮痛効果と消炎効果と解熱効果がある、トラムセットはアセトアミノフェンと弱オピオイドによる強力な鎮痛効果という結果ですね。
よくある質問
Q1: 毎日痛み止めを飲んでも大丈夫ですか?
A1: 原則としてあまり推奨されません。痛みとなる原因の根本的な治療が重要です。痛み止めはあくまで対処療法なので、継続的な痛みは専門医の診察を受けることをお勧めします。
Q2: 市販の痛み止めと病院の処方された痛み止めは何が違いますか?
A2: 主成分は同じでも、用量や剤形が異なります。また、処方薬は症状や体質に合わせて選択できる利点があります。
Q3: リウマチの痛みにはどの痛み止めが効果的ですか?
A3: カロナール、セレコックスなど、胃腸障害の少ない薬が推奨される他、一時的にステロイド薬を使用することもあります。ただし、必ず医師と相談の上で使用してください。
安全な使用のための3つの原則
1.正しい選択
- ・症状に合った薬剤を選ぶ
- ・自己判断を避け、専門家に相談
- ・既往歴や服用中の薬を確認
2.適切な使用
- ・用法・用量を守る
- ・空腹時の服用を避ける
- ・効果と副作用を観察
3.痛みの原因となる治療を
- ・痛み止めは対症療法
- ・根本的な原因の治療を並行
まとめ:正しい痛み止めの使い方
痛み止めは、適切に使用すれば私たちの生活の質を大きく向上させるとても役に立つ医薬品です。ここでは痛み止めの特徴や注意点は一部しか記載していません。その選択と使用方法には十分な注意が必要です。症状に合った適切な薬剤選択をして、用法・用量を守り、副作用がないことを確認し、痛みの原因に対する治療を行いましょう。
※個々の症例により適切な治療法は異なります。必ず医師に相談の上、治療を行ってください。
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参考文献
- [1]Lambarth A, et al. Long-term painkiller use in children and young adults and risk of mental illness and substance misuse: a population-based cohort study. Lancet Reg Health Eur. 2023;Nov 16.
- [2] Mastbergen SC, et al. (2002). Selective COX-2 inhibition prevents proinflammatory cytokine-induced cartilage damage. Rheumatology (Oxford). 41(7):801-8.
- [3] Küster M, et al. (2013). Consumption of analgesics before a marathon and the incidence of cardiovascular, gastrointestinal and renal problems: a cohort study. BMJ Open. 3(4):e002090.