血管が詰まる寸前の危険な症状 放置厳禁!
掲載日:2024.12.09
私たちの体は、信じられないほど複雑で精巧なメカニズムで動いています。その中心となるのが、心臓から送り出される血液です。血液は、体中に張り巡らされた血管という道路を通って、酸素や栄養を体の隅々まで届け、老廃物を回収するという、まさに生命維持の要となる活動を行っています。 この血管が何らかの原因で詰まってしまうと、酸素や栄養が行き届かなくなり、体は深刻なダメージを受けます。 それが、脳梗塞や心筋梗塞といった命に関わる病気につながるのです。
今回は、わかりやすく、血管が詰まるメカニズム、その前兆となるサイン、そして予防策について、詳しく解説していきます。 少し専門用語も出てきますが、図解を想像しながら読み進めていけば、きっと理解できるはずです。
1.血管のしくみと動脈硬化:詰まる原因を探る
2.生活習慣病との関連:動脈硬化を招くリスク因子
3.血管が詰まる前兆:見逃せない体のサイン
4.下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)/末梢動脈疾患(PAD)の前兆:足の冷えやしびれ、痛み
5.血管を守る生活習慣:予防が最も重要
6.まとめ:早期発見、早期治療、そして予防の重要性
7.参考文献
1.血管のしくみと動脈硬化:詰まる原因を探る
まず、血管について簡単に説明しましょう。血管には、心臓から血液を送り出す動脈と、心臓へ血液を戻す静脈があります。動脈は、心臓から送り出された酸素をたっぷり含んだ血液を、体の様々な組織や臓器に届けます。 一方、静脈は、組織や臓器で酸素が使われた後の血液を心臓に戻します。 この動脈と静脈をつなぐのが、毛細血管です。髪の毛の1/10ほどの細さで、体のあらゆる場所に張り巡らされています。私たちの体の血管をすべて繋げると、日本からブラジルまでの距離(約1~2万キロ)にもなるといわれており[1]、その血管を通じて心臓から送り出された血液は約30秒で身体を回り心臓に戻ります。 この驚くべき長さの血管ネットワークが、私たちの生命活動を支えているのです。
しかし、この大切な血管が、様々な原因で詰まってしまうことがあります。 その主な原因は動脈硬化です。動脈硬化とは、血管の内壁にコレステロールや中性脂肪などの脂質が蓄積し、加齢と共に血管の内側が狭くなる病気です。 イメージとしては、水道管の内側に徐々に汚れがこびりつき、水の流れが悪くなっていくような状態です。 この動脈硬化が進むと、血液の流れが悪くなり、血液がドロドロの状態になります。 ドロドロの血液は、血栓(血の塊)ができやすく、それが血管を完全に塞いでしまうと、血管が詰まってしまいます。血管が完全に詰まると、組織に酸素や栄養が行き渡らずに組織は壊死してしまいます。そして壊死した細胞は生き返ることはありません。
2.生活習慣病との関連:動脈硬化を招くリスク因子
動脈硬化は、私たちの生活習慣と深く関わっています。 特に、高血圧、高脂血症(血液中の悪玉コレステロールが多い状態)、喫煙、肥満は、動脈硬化を促進させる大きなリスク因子です。 これらの危険因子が複数重なると、動脈硬化が急速に進行し、血管が詰まるリスクが飛躍的に高まります。 これらの危険因子は「死の四重奏」とも呼ばれ、死亡率が約4倍に高まり、非常に危険な組み合わせです[2]。
- ・高血圧: 血圧が高いと、血管への負担が増加し、動脈硬化が進行しやすくなります。
- ・高脂血症: 血液中のコレステロールや中性脂肪が多いと、血管の内壁にコレステロールが蓄積し、動脈硬化の原因となります。
- ・喫煙: タバコに含まれるニコチンやタールは、血管を収縮させ、血栓ができやすくします。
- ・肥満: 肥満は、高血圧や高脂血症、糖尿病などの生活習慣病のリスクを高めます。
3.血管が詰まる前兆:見逃せない体のサイン
血管が完全に詰まる前に、私たちの体は様々なサインを発信します。 これらのサインは、詰まりかけの血管がある場所によって異なります。 早期発見・早期治療のためにも、これらのサインをしっかりと理解し、注意深く観察することが大切です
①脳梗塞の前兆:脳卒中の危険信号
脳は、私たちの体の司令塔です。脳の血管が詰まると、脳梗塞を起こし、最悪の場合、死に至ったり、重い後遺症が残ることもあります。 脳梗塞の前兆症状としては、以下のものが挙げられます。
- ・突然の激しい頭痛:今までに経験したことのないような、非常に強い頭痛が突然起こります。
- ・ろれつが回らない、言葉が出にくい:話し言葉が不明瞭になったり、言葉が出てこなくなったりします。
- ・片側の手足のしびれや脱力:片側の手足に力が入らなくなったり、痺れを感じたりします。
- ・視界の変化:物が二重に見える、視野が狭くなる、物が歪んで見えるなどの症状が現れます。
- ・めまい、ふらつき:平衡感覚が失われ、立っていられないほどにふらつきます。
これらの症状は、一時的なものであっても、脳梗塞の前兆である可能性があります。 すぐに医療機関を受診しましょう。
②心筋梗塞の前兆:胸の痛み、見過ごせない警告
心臓は、体中に血液を送り出すポンプの役割をしています。心臓の血管が詰まると、心筋梗塞を起こし、命に関わる危険な状態になります。 心筋梗塞の前兆症状としては、以下のものが挙げられます。
- ・胸の痛みや圧迫感:胸が締め付けられるような痛みや圧迫感を感じます。 痛みは、肩や腕、顎などに広がることもあります。胃の痛みと感じる場合もあります。
- ・息切れ:少し動いただけで息切れがするようになります。
- ・動悸:心臓がドキドキと速く打つ感じがします。
- ・吐き気や嘔吐:吐き気や嘔吐を伴うこともあります。
これらの症状は、運動時や安静時など、様々な状況で起こりうるため、注意が必要です。 特に、今までに経験したことのない胸の痛みは、心筋梗塞の可能性も考えられます。 すぐに医療機関を受診しましょう。
4. 下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)/末梢動脈疾患(PAD)の前兆:足の冷えやしびれ、痛み
①血管による足の冷えや痛み
足の血管が詰まる病気は、下肢閉塞性動脈硬化症(ASO)または末梢動脈疾患(PAD)と呼ばれます。 初期症状は、足の冷えやしびれです。 進行すると、間歇性跛行(かんけつせいはこう)と呼ばれる、歩くと足の痛みが出るが休むと楽になる症状が現れます。
さらに進行すると、安静時でも痛みが続くようになり、最終的には潰瘍や壊死を起こし、最悪の場合、足の切断が必要になることもあります。 特に、喫煙者や糖尿病の人は、注意が必要です。 足の冷えや痛み、しびれを感じたら、早めに医療機関を受診しましょう。最近では造影剤を使用せずに下肢の血管が詰まりかけているかをMRIでも確認できます。
②腰部脊柱管狭窄症による足の冷えやしびれ、痛み
高齢者の10人に1人がかかると言われる腰部脊柱管狭窄症の症状も同じように足の冷えやしびれ、痛み、間歇性跛行があります。これを見分ける方法として、腰部脊柱管狭窄症が原因なら、前かがみになると痛みやしびれが楽になります。例えば、自転車やシルバーカーを使って動くと休まずに問題なく歩けますね。この時には無意識のうちに腰が前かがみになっているのです。整形外科では、腰の診察で坐骨神経などの症状がないかを見るときに足を診察するので、血流が悪いとその時点で気づくことが多いですね。
5.血管を守る生活習慣:予防が最も重要
血管の健康を守るためには、日頃から正しい生活習慣を心がけることがとても大切です。 動脈硬化を予防し、血液をサラサラにするための具体的な対策を以下に示します。
- ・バランスの良い食事: 野菜、果物、魚介類を多く摂り、塩分や脂質の摂取を控えましょう。 コレステロール値が高い人は、コレステロールの摂取量にも気をつけましょう。
- ・適度な運動: 毎日30分程度のウォーキングなどの有酸素運動を習慣に取り入れることが大切です。有酸素運動は動脈硬化を改善させ、悪玉コレステロールといわれるLDLを低下させる効果もあります[3]。
- ・禁煙: タバコは血管に非常に悪影響を与えます。 禁煙は、血管の健康を守る上で最も重要なことです。
- ・適正体重の維持: 肥満は、様々な生活習慣病のリスクを高めます。 適正体重を維持するために、食事と運動を心がけましょう。
- ・定期的な健康診断: 高血圧や高脂血症などのリスク因子を早期に発見し、適切な治療を受けることで、血管が詰まるリスクを減らすことができます。頸動脈エコー、足首と腕の血圧比較検査(ABI)は痛みなく、約10分程度ですぐに動脈硬化の診断ができます。
- ・ストレス軽減: ストレスは、血管に悪影響を与えます。 ストレスをため込まないように、適度な休息や趣味を持つことが大切です。
- ・栄養指導:生活習慣病は食生活の見直しが重要です。普段から当たり前のように調理している食事が塩分や脂質、糖分の摂取量が多すぎることがよくあります。正しい栄養管理を行いましょう。
6.まとめ:早期発見、早期治療、そして予防の重要性
血管が詰まる病気は、早期発見と早期治療がとても重要です。少しでも気になる症状があれば、すぐに医療機関を受診しましょう。 そして、日頃から健康的な生活習慣を心がけることで、血管の健康を守り、健康寿命を延ばすことができます。 自分の体は自分で守る、そのための第一歩として、健康的な生活を送りましょう。このコラムが皆様の健康に少しでも役立てば幸いです。
7.参考文献
- David C. Poole, Yutaka Kano, Shunsaku Koga, Timothy I. Musch, August Krogh: Muscle capillary function and oxygen delivery, Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Molecular & Integrative Physiology, Volume 253,2021,
- Holthuis EI, Visseren FLJ, Bots ML, Peters SAE; UCC-SMART study group. Risk Factor Clusters and Cardiovascular Disease in High-Risk Patients: The UCC-SMART Study. Glob Heart. 2021 Dec 21;16(1):85.
- Gao Q, Kou T, Zhuang B, Ren Y, Dong X, Wang Q. The Association between Exercise Training and Physiological Measures of Subclinical Atherosclerosis: A Meta-Analysis of Randomized Controlled Trials. Sports Med Open. 2023 Jan 25;9(1):10