運動だけじゃダメ!医師が解説 65歳からの簡単な筋肉のつけ方
掲載日:2024.12.18
「運動だけじゃダメ!」——65歳以上の方にとって、これは人生100年時代を健康に過ごすために大事なキーワードになるかもしれません。なぜなら、私たちの身体は年齢を重ねるごとに、立つ・歩くといった移動能力を支える筋力が確実に低下していきます。この移動機能の低下は日本整形外科学会が提唱した「ロコモティブシンドローム(ロコモ)」と呼ばれる状態を引き起こし、転倒や骨折、ひいては寝たきりの原因になるのです。でも安心してください。65歳からでも落ちた筋肉を戻す高齢者向けの対策があります。このコラムでは医学的根拠に基づいた高齢者が筋肉をつける方法を紹介します。運動だけでなく、食事、睡眠、社会活動を組み合わせることで、ロコモを防ぎ、元気で明るい生活を送るために役立つ正しい情報を提供します。
1.はじめに
2.筋力低下のサインを見逃さない:7つのチェック項目
3.高齢者の筋トレ:自宅で筋肉をつける方法
4.運動だけじゃダメ!食事・睡眠・社会活動も重要
5.膝の痛みがあるときの工夫
6.まとめ
7.参考文献
はじめに
65歳を過ぎると、筋力は年間約2~4%低下すると報告されています[1]。特に歩行に必要な筋肉を含む抗重力筋が衰えると、ほんの小さな段差でもつまずきやすくなり、転倒や骨折のリスクが高まります。こうして移動能力が低下した状態が、ロコモです。ロコモは、骨、関節、筋肉など運動器のトラブルによって、立ち上がる、歩くといった基本動作が困難になり、生活の質を下げてしまいます。ところで、サルコペニア、フレイルという言葉をご存知でしょうか?サルコペニアは加齢に伴う筋肉量や筋力の低下のことであり、ロコモを進行させる一因となります。フレイルは身体だけでなく心も含めて弱くなった状態を指します。外出せず人とコミュニケーションを取らずに引きこもると、精神的にも身体も弱り、フレイルへと近づいていく危険性があります。ロコモ、サルコペニア、フレイルはいずれも寝たきりや要介護状態への入り口です。けれども、今回のコラムでは、寝たきりや要介護にならないための対策を紹介しますね。
筋力低下のサインを見逃さない:7つのチェック項目
まずは、自分の筋力が落ちていないか確認してみましょう。
- ・片足立ちで靴下がはけない
- ・家の中でつまずいたり、すべったりする
- ・階段を上るのに手すりが必要
- ・家事がしんどい
- ・牛乳2パック買い物袋に入れて持てない
- ・横断歩道を青信号で渡り切れない
- ・15分続けて歩けない
いかがでしたか?以下の7項目のうち1つでも当てはまると、筋力が低下してきているサインで、ロコモ予備軍です。今から対策することで将来の寝たきり予防にもつながります。
高齢者の筋トレ:自宅で筋肉をつける方法
歩くために必要な筋肉を鍛えて、簡単で続けやすい2つの運動を紹介しますね。
片足立ち
片足ずつ1分間、朝昼晩で計3回行います。バランスが難しい時は机や壁に手を添えてもOK。1分の片足立ちは、なんと約53分のウォーキングに相当する効果があるといわれ、バランス機能の訓練、下半身の筋力アップに最適です。
スクワット
1日5~6回を3セット行います。膝がつま先より前に出ないよう、腰を後ろへ引くようなイメージでゆっくり行いましょう。スクワットは脊柱起立筋、お尻の大臀筋・中臀筋・腸腰筋、太ももの大腿四頭筋・ハムストリング・内転筋、ふくらはぎの下腿三頭筋など、歩行に必要な筋肉を一度に鍛えることができます。
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これらの運動を続けることで、ロコモ予防はもちろん、サルコペニアによる筋肉減少を抑え、外出したくなるほど体が軽くなれば、社会活動が増え、結果としてフレイル予防にもつながるのです。
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運動だけじゃダメ!食事・睡眠・社会活動も重要
筋肉は作るだけでなく、維持することも大切です。そのためには運動以外の要素も不可欠です。
①食事
タンパク質を適度に摂取することで、筋肉はしっかり合成されます[3]。肉、魚、大豆製品、乳製品、卵などをバランス良く摂りましょう。ビタミンD、C、K、マグネシウムなどの栄養素も筋肉の合成をサポートします。膝に良い食べ物についてはこちら!
②睡眠
睡眠不足は成長ホルモンやIGF-1などの発現を減少させるので筋タンパク質合成を何と約19%も減少させてしまいます[4]。1日7−8時間睡眠をとる男性は、1日6時間睡眠をとる人より、高い筋力を持つという報告があります[5]。十分な睡眠は筋肉を修復し、成長ホルモンの分泌を促します。7時間以上の良質な睡眠を心がけ、睡眠の質を良くするために寝る前のスマホやパソコン、アルコール摂取は控えましょう。
③社会活動
家に引きこもらず、週に2、3回は外出して友人と会話したり、趣味の集まりに参加したりしましょう[6]。こうした活動は心の健康にも良く、結果的に運動を続けるモチベーションとなり、ロコモを遠ざける効果があります。社会活動が不足すると心身が弱り、フレイルへと近づく可能性があるため、バランスよく生活を楽しむことが大切です。
膝の痛みがあるときの工夫
65歳以上の高齢者は約4人に1人が膝の痛みを感じたことがあると報告されています。もし下肢筋力トレーニングをする際に膝が痛い場合は、膝に負担をかけにくい運動などを取り入れるのがおすすめです。膝の痛みが強い時は無理をせず、少しずつ筋力をつけてロコモ予防につなげましょう。
- 1.ロコモティブシンドローム(ロコモ)は、立つ・歩くなどの移動能力が低下した状態で、転倒や骨折を招きやすい。
- 2.年齢とともに筋力が落ちるが、簡単な運動(片足立ち・スクワット)で歩くために必要な筋肉を鍛えれば、ロコモ予防が可能。
- 3.食事(タンパク質)、睡眠(7時間以上)、社会活動(週2~3回外出)も組み合わせることで、筋肉をより効果的に維持・強化できる。
- 4.社会参加を意識すれば、サルコペニアやフレイルといった心身の弱りも遠ざけられる。
まとめ
さあ、今日から始めてみませんか?いつやるの?今でしょ。まずは片足立ち1分、できそうならスクワット5~6回に挑戦してみましょう。食事では魚やお肉などタンパク質を少し増やし、来週は友人とおしゃべりしながら散歩に出かけてみてください。そういった小さな習慣が、将来のロコモ予防につながります。軟骨を守って痛みなく健康で明るく楽しい生活を過ごして、いつまでも元気に歩きましょう。
中山クリニックでは、膝に良い食べ物やダイエットなど管理栄養士による栄養相談を行っています。食生活から健康な生活習慣を身につけてみてはいかがですか?
参考文献
- Distefano G, Goodpaster BH. Effects of Exercise and Aging on Skeletal Muscle. Cold Spring Harb Perspect Med. 2018 Mar 1;8(3):a029785.
- Cadore EL, et al. Effects of different exercise interventions on risk of falls, gait ability, and balance in physically frail older adults: a systematic review. Rejuvenation Res. 2013 Apr;16(2):105-14.
- Tieland M, et al. Protein supplementation increases muscle mass gain during prolonged resistance-type exercise training in frail elderly people: a randomized, double-blind, placebo-controlled trial. J Am Med Dir Assoc. 2012 Oct;13(8):713-9.
- Ramos-Campo DJ, et al. Effects of resistance training intensity on sleep quality and strength recovery in trained men: a randomized cross-over study. Biol Sport. 2021 Mar;38(1):81-88.
- Chen Y, et al. Relationship between sleep and muscle strength among Chinese university students: a cross-sectional study. J Musculoskelet Neuronal Interact. 2017 Dec 1;17(4):327-333
- Katayama O, et al. The association between social activity and physical frailty among community-dwelling older adults in Japan. BMC Geriatr. 2022 Nov 16;22(1):870.